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ヴェネツィア「海との結婚」

アドリア海に浮かぶ魅惑的な水上都市、ヴェネツィアでは毎年5月に「海との結婚」と呼ばれる祭りが開かれます。

もともとは、1177年から1797年までヴェネツィアが最も栄えた時代に行われていたものです。
当時から五月のキリストの昇天祭のおりに、高価な金の指輪を海に投げ込む厳粛な儀式が行われていました。

この結婚は、ヴェネツィアとアドリア海をそれぞれ男性と女性に見立てています。

ヴェネツィアからはドージェと呼ばれる共和国の総督が、プチントーロという金で飾られた豪華な船に乗ってアドリア海に漕ぎ出し、高価な金の指輪をリド沖へ投げ込んだのです。

女性に見立てられるアドリア海。それはギリシア神話のなかに登場するアフロディーテに由来します。
アフロディーテは海の泡から誕生したとされ、愛や美のシンボルとして知られています。彼女は黄金によって飾り立てられ、航海の女神ともされていました。ローマではウェヌス(ヴィーナス)と呼ばれ、海や航海とのかかわりから、ヴェネツィアの語源になっています。

ヴェネツィアは水上都市なので、海という自然に対する安全を願っての祭りだったといわれています。
いつもは穏やかな海も、いったん荒れると、大きな災害をもたらすので、ヴェネツィアの商人たちにとっては、海上安全がもっとも切実な願いでした。

「海との結婚」が行われはじめた12世紀、ヨーロッパでは結婚の習俗がほぼ定着しかけていたため、金の指輪が結婚の証として使われるようになったようです。

似たような習俗はすでにあり、古代人が灼熱の鉄を海に投げ込み、誓いを立てたとか、紀元前六世紀ごろのサモスの王ポリュクラテスが、指輪を海の運命の女神のために投げ込んだといわれています(プリニウスの博物記)。